「お客さまの声をよく聞きなさい」といわれます。
商売のヒントも答えも、全てはお客さまの声にあるという考え方は、顧客満足を追求するうえではもっともな意見でしょう。
現場のリアルな反応には、そこでしか 得られない鮮度の高い情報が反映されています。
ところが、顧客の意見をできるだけ取り入れた結果、商品がまったく売れなかったという話も聞きます。
顧客がデタラメを言ったのでしょうか?
それとも顧客の意見を読み違えたのでしょうか?
『ユーザ中心ウェブビジネス戦略』という本によれば、これは人間の無意識による結果だそうです。
行動心理学とデータ分析で多くの顧客の行動を観察してきたという本書の中で、とても興味深い事例が紹介されていました。
ある食器メーカーが主婦5人に「次に買うとしたらどんな食器が欲しいですか?」と聞きました。
主婦たちは話し合い「黒くて四角いおしゃれなお皿が欲しい」という意見でまとまりました。
その帰り際に「お礼としてサンプルの食器の中からお好きなお皿をひとつお持ち帰りください」と言うと、なんと5人全員が「白くて丸いお皿」を選んだとか。
その理由は「自宅のお皿は丸いものばかりなので、丸いお皿でないと重ねて置けない」「テーブルの色に合わせて食器は白でそろえている」などだったそうです。
落語のオチのような話ですが、行動心理学的で考えられる理由のひとつは想像力の限界です。
「黒くて四角いおしゃれなお皿」は主婦5人の想像で、具体的にあるわけではありません。
人は、具体的でないものに対して良しあしの判断をつけられないそうです。
もうひとつは認められたい願望です。
グループで話し合うと、他のメンバーや主催者に認められやすい発言をしがちだそうです。
ただ、これは人間として仕方のないことなのでしょう。
主婦がデタラメな話し合いをして「黒くて四角いお皿」と言ったわけではなく、人間の無識がなせる「認識」や「認知」の表れ方のひとつなのです。
顧客の声なんてアテにならないという話ではありません。
最終的に決めるのは全て自分自身なのです。