お店や会社などのトイレに名言が貼ってあると、つい読んでしまいます。
聞いたことのある言葉でも、一人の空間でリラックスしているせいか、妙に心にしみたりします。
ここ最近は、困難を乗り越えるための心構えを説いた言葉に出会うことが増えました。
印象に残っているのは『安岡正篤 活学一日一言』の言葉です。
「世に知者は多いが、時を知ること。難を知ること。命を知ること。退を知ること。足るを知ること。五知を養い得て、始めて能(よ)く難局に当ることができる」。
宋(そう)の賢人・李繹(りえき)の『五知先生伝』からの引用だそうです。
SBIホールディングスの北尾吉孝社長も、自著の中で「能(よ)く難局を乗り越えるために」と題して「五知」について書かれていました。
「時を知る」とは、タイミングを逃さず、時には時流を捉え、臨機応変に対応することが大事であるということ。
「難を知る」とは、難局を乗り切るための策を常に考えて行動し、最悪の状況に備えておくこと。
「命を知る」とは、日頃の仕事の中で自分の能力や強みを知り、自分の生かし方を模索して自らを開拓していくこと。
「退を知る」とは、退くべきときに退く勇気を持つこと。前向きに攻めることも大事ですし、守りを固めることも同じくらい大事であるという意味です。
「足るを知る」とは、今の自分にないものを探すより、今あるもの、与えられているものを探し、それらを生かし、感謝しながら歩んでいくこと。単に知識を得るのではなく、この「五知」を養い得て、はじめて難局に立ち向かえるというわけです。
この貼り紙を見かけたのは何度か行ったことのある飲食店でした。
コロナの前にはなかったと記憶しているので、ここ2年ほどの間に貼ったのでしょう。
このお店が直面した難局はどれほどのものだったのか。どんな気持ちでこれをトイレに貼ったのか。そんなことを思いながら、ポケットからスマホを取り出して貼り紙を写真に収めました。
そして席に戻るとメニューの中から一番高い料理を注文しました。同じく商売を営む身として、見ず知らずのオーナーにエールを送りたいと思ったのです。