「初心忘るべからず」。
人生の中で何十回も見聞きしたこの言葉は、もともと世阿弥(ぜあみ)の『風姿花伝(ふうしかでん)』の中に記されたものです。
能楽の文脈で語られた教えが、商売の世界にも通じる普遍的な知恵であることを今一度、思い出してみたいと思います。
経営者にとって「初心」とは創業時の志や熱意を指します。
なぜ会社を立ち上げたのか。誰のために何を実現しようとしたのか。
商売を続けていく上で、初心は原点でもあります。
同時に「初心」には、常に新たな気持ちで臨むという意味もあります。
商売が上向いてくると、慢心やおごりが生まれやすくなります。
しかし市場は絶えず変化し、新たな課題が次々と生まれます。
そのたびに初心者の目線で状況を見直し、柔軟に対応する姿勢を忘れないようにしたいものです。
また「初心忘るべからず」の精神は、イノベーションの源泉にもなります。
今までの成功体験に安住せず、新しい価値を作り続けていく挑戦こそが、商売の持続的成長には不可欠でしょう。
さらには、顧客や従業員との関係性にも応用できる考え方です。
商売が拡大すると、個々の顧客や従業員との距離が遠くなりがちです。
新規顧客や今の従業員はもちろん大切ですが、創業期からのご縁に対する感謝を忘れていないでしょうか。
今は関りがないとしても、会社を支えてくれた大事なご縁に違いはありません。
「初心忘るべからず」は単なる格言ではなく、日々の意思決定や行動の指針となる極めて実践的な心構えです。
現状が良くてもそうでなくても、日々初心にかえることができたら、商売も人間性も真の意味で成熟していけるように思います。