2019.03.15更新

 「世の中に たえて桜の なかりせば 春の心は のどけからまし(在原業平:ありわらのなりひら)」。

 世の中にもし桜がなければ、どれほど心穏やかに春を過ごすことができるでしょう。

 この歌のとおり、日本人にとって桜ほど縁の深い花はありません。

 古来、花といえば桜を指したといわれるほどです。

 暖かくなれば桜は咲いたかとそわそわし、風が吹けば桜が散りはしないかと気がもめる。

 そんな気ぜわしさも春が訪れた証です。

 世界的な桜の名所として知られるワシントンD.C.のポトマック河畔。

 あの桜並木は、1912年に日本が贈った桜の苗木から始まったのは有名な話です。

 桜の季節が終わった寂しさをなぐさめるように初夏を彩るのは、白や赤の花をつけるハナミズキ。

 アメリカ東部が原産のハナミズキは、ポトマック河畔の桜のお礼として大正時代にアメリカから日本に渡ってきました。

 ハナミズキの花言葉は「返礼」。

 当時の人々の温かい交流をうかがい知ることができますが、このハナミズキの運命はワシントンD.C.の桜とは異なるものでした。

 太平洋戦争が始まると、それまで日比谷公園などに植えられていたハナミズキの一部は「敵国の贈り物」として切り倒されたり、空襲などで枯れたりしてしまったのです。

 人々の心はハナミズキから離れ、存在も忘れ去られました。

 しかし原木は生き残り、心ある人たちのおかげで再び開花することができたのです。

 東京都立園芸高校などでは、高さ10メートル、幹回りが1メートルを超える老木が今でも花を咲かせている様子を見ることができます。

 100年以上前の出来事が今につながっている例はほかにもありますが、そこに共通しているのは「人の思いが新たな歴史を作った」ということです。

 今の商売が100年続くかどうかは運任せでも、商売に込めた思いが本物であれば新たな価値を生み出すことはあるでしょう。

 人生100年時代、AIが台頭する時代だからこそ、誰に何を贈るか、誰に何を返礼するかを考えながら、今まで以上に人の思いを大切にした商売をしていきたいですね。

投稿者: 伯税務会計事務所

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